性能が似たようなものであれば、住まいづくりの楽しみは、間取りと考える人も多いでしょう。間取りは家族の数だけバリエーションがあります。さすがに自分で書けるようになるまでは少し勉強しなければなりませんが、間取り図をみてイメージが湧くようになると、どんなに眺めていても飽きることはありません。
なかなか感覚がつかめないようでしたら、今住んでいる家の間取りを一度描いてみたら、だいぶ感覚がつかめるようになります。
もちろん法律的な規制もありますから、自分の考えているままに建てられているとは限りません。
こんな時に、一緒に考えてくれる設計士や担当の人がいて会話を重ねるのは、まさに住まいづくりの楽しみのひとつです。建築士に頼めば費用はかかりますが、それだけに教えられることも多いと思います。素人でも分かりやすいように、模型を作ってくれるところもあります。
しかし、ここで大切なのは、実は本当の使いやすさを検討するのは難しいということです。というのは、実際の生活では、いろいろな試行錯誤の上でモノの配置が決まってゆくからです。ですから、どうしても紙の上や模型の中で本当の使い勝手を想像しようと思っても、そうはいけないものなのです。百戦錬磨の建築家が、一緒に暮らしてつきあいを深めるほど家族の癖を知っても、難しいかもしれません。
それは間取りも性能と同じように、変わる可能性が大きいからです。家族が成長し、時代と同時にモノが変わり、増えてくると間取りの使い方も変わります。たとえばテレビなどは、地デジ化と同時に大きく変わりました。奥行きのあるブラウン管から、今ではすっかり薄型テレビになりました。大型化すれば部屋の隅に置いていたテレビが、今では壁にかけられるようになっています。間取りの使い方に影響を及ぼしているはずです。時代のモノと共に間取りも変わるのです。
また、それ以上に家を建てて暮らしている期間に比べて、紙の上で検討している時間はあまりにも短い時間です。それで使い勝手まで検討することは不可能です。使い方は、ゆっくり時間をかけて住まいながら築いてゆくことに勝る方法はないのです。
収納についてこだわる人も多くいますが、収納も変化が大きく、家具や仕切りでつくろうと思えばできることです。もしかしたら間取りを突き詰めるよりも、気楽にスペースを確保しておいて、住まいながら少しずつ築いてゆく方が良さそうです。
なによりも、住まいづくりの根本的な考え方を、建築家や担当者とはなしておくことです。
どんな家にしてゆきますか
間取りの他にも、楽しみなことはたくさんあります。たとえば、全体のコーディネートです。
最も単純なのは、どんな家の色にしてゆくのでしょうか。シンプルなホワイト基調のデザインが一時期流行りました。昨今は、木材が現しになっている家を大手メーカーまでが手がけ始めています。自然志向の、木の匂いのする家です。この時には木材はできる限り無塗装の方がよいでしょう。
こだわるのであれば、日本国産の木材を使った家が良いのでは?
ヒノキであれば、東濃産の材にこだわって手配をしたり、地産の杉を探しにだすのも良いでしょう。住まいを検討するときでもなければ、こうした木材をじっくり眺めて、検討する機会もほとんどないのではないでしょうか。
こうした楽しみは、完成現場を見せてもらう以上に、工事を進めている段階の構造体の見学会などに参加してみてはいかがでしょうか。現場に大工さんがいれば、いろいろと話を聞けることもあります。商売よりも、自分の仕事に無心に取り組んでいる人の話は、素朴で共感がもてることもたくさんあります。
木の話のついでに、木材の、ちょっとした手入れの仕方も聞いておかなければ、住み始めてからの心配も増えます。木の色や風合いの変化だけではなく、ちょっとした毛割れや干し割れが入るのも、本物ならではの楽しみです。見た目は木材に見えても、塩ビのシートを貼ったものでは味わえないことです。
日本人がどんな木を使って住まいづくりをしてきたのか、知ればなおさら、家を大切にしたい気持ちも湧いてきます。こうした文化的な話こそが、性能の話よりも住まいづくりの楽しみを生み出してくれる、大切な話のです。
■おうちのはなし 020
住まいづくりの楽しみ方―ゆっくり家をつくろう―
一般社団法人 住まい文化研究会 石川 新治