VOCとアレルギー
シックハウスとしてアレルギーのことを考えるのは単純なことではありません。先のホルムアルデヒドも、扱っていても症状がでない人もいます。つまり個人によって差があるということです。そして、アレルギーよりも症状の軽い過敏症もあります。一方、ホルムアルデヒドの放散量の基準が0にならないのも、一部の魚類や椎茸など、天然食材の中にもホルムアルデヒドを含むものが存在しているという事実があるからです。
またホルムアルデヒド以外のVOCもたくさんあります。たとえば木材の匂いも、いわばフェノール系の揮発性有機物です。WHOのVOC規制基準に組み込まれ、木材が有害建材になりかけたこともあります。ヒノキやスギの匂いを楽しむどことではありません。
また、アレルギー症状を起こすのは、VOCなどの人工的な素材だけに限られているわけではありません。毎年スギ花粉やブタクサ花粉に悩まされる人はたくさんいます。どの成分によって健康を害することがあるのかは、まったく個人によって違うのです。他の多くの人が使っているからといって、安全とは言いきれません。
添い寝をして材とつき合う
それでは新築やリフォーム時には、どのような対策をすれば良いのでしょうか。難しい問題です。
基準がある建材については、基準値をクリアしていることは最初の対策です。もちろん多くの人が使っている建材を確認することも大事です。
それでも気になる場合にお勧めできる対策は、検討している建材のサンプルと添い寝をしてみることです。つまり、自分の身体に聞いてみることがいちばんなのです。地域に根ざして活動している新築やリフォームの会社では、そのようなサンプルも用意してくれます。
じつは、一度添い寝をして一晩をつき合い、自分の心に、害のないことを思いこませることも大切です。
たとえば製薬を開発する過程では、プラセボという試験を行います。動物実験で効果があっても、人間は脳で判断する動物なので薬効についても単純ではありません。全く効果のないものでも、効果があると聞いて投与されると症状が改善することがあります。そのため効果のないものを投与したプラセボ群と新薬を投与した群と比較して、明確な効果を確認しているのです。
使おうとする建材と添い寝をして、自分の身体で確かめて無害であることを信じることは、アレルギーや過敏症を発症させないために大事なことなのです。
寒い冬に多い事故
もうひとつの健康を維持する住まいとはどのようなものでしょうか。明確な答えがあれば楽ですが、健康法も数え切れないほどあり、答えを見つけるのは簡単ではありません。しかも健康を維持する住まいとなればなおさらです。でも、ここではとても単純な答えとして″身体を温める″を考えます。
そのことをいちばん実感できるのは、ほとんどの病気の死亡率が、冬に高いことです。また、1日のうちで体温や外気温が低い午前3時~5時にも、死亡率は高くなります。
家庭内事故の傾向からも寒さの危険が読み取れます。事故の中でも93%が住特となるほど、危険度が高いのは溺水です。溺水がニュースになるのは夏場が多いのですが、消防庁の救急搬送人数のデータでは圧倒的に多いのは冬場です。
冬ほど溺れる人が多いというのは、ちょっと信じられないデータのように思えます。でも、その多くが家の中で起きているということは容易に想像できます。身体が冷える時には、事故であれ健康であれ問題が起きやすいのです。
健康を維持する家
日本人が考え出した体を温める知恵は、先の腹巻の他にも風呂があります。シャワーを浴びるよりも、温かい湯の中にしっかりと浸かり身体を温める習慣があるのは日本以外では聞かれません。
衛生面で汗と汚れを流すだけではなく、身体を温めて血流を良くし、湯船に浸かって1日を反省し、新しいアイデアを生み出し、その後の睡眠を誘ってくれます。湯船に浸かった時のため息で、なぜか気持ちは前向きになります。風呂は身体にも心にも健康をもたらせてくれる、大事な文化です。しっかりとリラックスできる浴室を、ぜひ用意しておきたいものです。
逆に、身体を冷やさないことを考えると、温かさを逃がさない家にすることも大切です。省エネルギー住宅を求めることは、地球環境への貢献という大義と、冷暖房費を節約することの他に、健康を維持するためにも必要なことなのです。高齢者の溺水事故を少なくするのにも、温度差の少ない家にして急激な冷えを作らないようにする方が賢明です。
また、看護師は病人の身体を冷やさないようにするために、毛布をかけます。じつは患者が体温を奪われるのは、部屋の冷気よりも壁や天井に吸収される熱が多いと教わるからです。窓があれば、閉じていても熱は放射熱としても逃げて行きます。毛布をかけることで、放射熱として奪われるのを抑えるのです。
その意味では、壁や天井の材料にも工夫の余地があります。熱伝導率の高い鉄や、熱容量の大きいコンクリートは放射熱を吸収しやすいので避けなければなりません。周囲に吸収される熱が少なければ、もともと自分が発する熱が蓄えられて、身体は自然と温まります。
金属とコンクリートと木材の箱で、ハツカネズミを飼育した有名な実験があります。20日後の生存率は木材の箱の86%に対して、金属の箱では42%、コンクリートの箱では7%という結果でした。もちろん要因は色々と考えられますが、体温が取られたことも指摘されています。
低体温はさまざま病気を招くと言われています。便秘・肌荒れ・アトピー・アレルギー・ガン等々。身体が温められる家に暮らせば、アトピーやアレルギー症状が抑えられる可能性があります。身体を冷やさない家は、元気を生み出してくれる家でもあるのです。
■おうちのはなし 068
住まいと健康―元気を生み出す家―
一般社団法人 住まい文化研究会 石川 新治